海外留学のススメ
海外留学のメリットはものすごくあります。
“日本の医療は先進国でトップクラスだからいいんじゃないの”、“危険をおかしてまで行く必要ないじゃない”、“借金するし”などネガティブな意見もあるかもしれません。
けれども、海外留学はメリットが、はるかにデメリットを凌駕します。
1.井の中の蛙でなくなる
医療は、グレイゾーン、controversial(議論の余地ある)な領域が多いです。我々のやっていること、先輩から教わったことが、常に正しいということは、あまりというかほぼありません。
私は外科医として、留学前に教えられた手術のスタンスは、留学により打ち消されました。そして今では、留学時に学んだ手術のスタイルが、非常に役立っています。留学前は、手術の時、助手であっても、なにか手を動かしていないと、怠けているような、あるいは怒られることもありました。留学により180度変わりました。「助手は、動くな、邪魔するな、術者がやりやすい様に、黒子に徹しなさい」です。まさに、こちらの方が特に難易度の高い手術を行うには理想的です。助手が、術者と同じような経験、知識、技量を持つわけでもなく、通常、術者とシンクロナイズなどできるはずないからです。
通常、留学先は世界のトップクラスを目指します。世界の最先端を経験できるわけです。何故、最先端になったのか、どうしたら、こうなるかを身をもって経験できるわけです。これだけでも、その後の医師人生に大きな影響を及ぼしますよね。
2.グローバルな医療を体感できる
日本の国民皆保険制度は、世界に誇れる医療制度です。貧富の差、地域の差に関わらず、誰もが質の高い均一の医療を税金で受けることができます。例えば、誰かが、道端で倒れていれば、誰かが救急車を呼び、適切な医療機関に運ばれ、背景(所得や保険、社会的立場や属性など)を確認することなく、状況に応じた診断治療が行われます。ただし、これは高度経済成長期の産物であり、この制度が現状の日本で、このまま続くとは到底思えません。
米国の医療制度は、シビアです。保険の有無、属性を確認し、deposit(保証金)などを確認したのちに、医療が始まります。中国もほぼ同様です。その一方で、キャリアアップを成し遂げたドクターには、しっかりした報酬が入ってきます。
どちらが、グローバルスタンダード?ということになります。日本では、お金のことを前面に出すのは、ある意味タブー視されています。
3.箔がつく
海外留学経験は、履歴書(Curriculum Vitae、CV)に記入できますよね。医師は、海外留学に敏感です。「それだけのことをやってきたんだ」と認識されます。事務方もそうです。「この人は信頼できる」といえば言い過ぎかもしれませんが、少なくとも医師のキャリアに箔がつくことはいうまでもありません。転職の際も、大きなアピールポイントとなります。
4.英語力が身につく
米国留学に際して、ロータリー財団の奨学金を受けるためにTOEFLの勉強をしました。大学受験後、久しぶりの英語学習です。お金と目標がかかっているので必死です。米国に行って、マクドナルドで“That’s it ?”と言われ、ポカーンとなり、実地英語の登竜門となりました。That’s it ?=(注文は)以上か?ということが、後ほどわかりました。留学して生活が始まると、電話で電気や水道の手配で“ペラペラペラペラ”と英語で聞かされ、必死で聞きました。海外で、旅行ではなく生活すると、英語を必死でやらなければ痛い思いをします。これを経験すると、英語でのコミュニケーションのHow toがわかります。中学レベルの文法、単語でほぼ十分というのが、身をもってわかります。
5.交渉力が身につく
日本で生活していると、誰かが、なんとなく、正確にきっちりやってくれます。海外ではそれは通用しません。日常生活もそうですが、米国の医師は、交渉力(negotiation power)が半端ないです。年俸も、ポジションも交渉力によって決まります。面接(Interview)によって、条件の良いところに渡って、スキルアップを図っていくのが米国人医師です。ある意味、客観的で公正なシステムだと思います。日本もやがてはそうなっていくことでしょう。
6.家族とともに行けば、家族もグローバルの風に吹かれる
私は、家族5人で留学しました。子供たちは、現地校に通い、フランソア、ボブ、マーガレット、ナターシャなどすぐに友達ができ、家に遊びに来ていました。外国人に対しての抵抗感は今でもないです。無報酬(いわゆる手弁当)で行ったため、よく観光で遊びにも行きました。今でも、良い思い出です。
7.医者人生に必ず役に立つ
世界のトップランナーを垣間見る、経験できる。グローバル医療を体感できる、英語力アップ、国際コミュニケーション力への活用、交渉力、井の中の蛙の回避、外国人に抵抗感がなくなる、国際学会、英語論文に積極的になる、など医師としての今後の人生に、幅を広げ、深みを出すこと、あらゆる方面で役に立ちます。
海外留学の節目は、後期研修医終了後、医学博士取得後、10年目ごろ(サブスペシャリティーの専門医取得後)、15年目ごろ(教授戦を見据えて)、などあるかとは思いますが、何時でも良いと思います。チャンスがあれば、或いはチャンスを自ら作り出しても、海外留学はメリット多大だと思います。
海外留学は、確かにお金がかかります。ただし、借金取りに追われる人生になるほどは決してありません。メリット>>>>デメリットと思います。
留学先ですが、米国は911テロ以来、外国人医師に対して臨床参入の障壁を上げてきています。USMLE1/2を取得していないと、例えば、外科であればスクラブできないようになってきています。研究留学では良いでしょうが、臨床留学では、今からそういったことも考えてから、選択したほうが良いかもしれません。
お金はあまりありませんでしたが、過去を振り返って、留学時代は一番楽しかったです。 Go abroad !!!